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■水についての小さなエピソード;①手に触れる優しさとは違い [水]

●羊水を蹴って生まれたはずの僕がいつか水を恐れるように
なったのは何故だろうか.手に触れた最初の感触を思い出す
ことはできないが,魚網を片手にウグイを追って小川を
さかのぼった少年時代の記憶は恐怖とは逆の感覚で有った
と断言できる.指先に触れる流れは同じ水では無いという意味
では生きること,つまり,時間的な存在という意味では
微かな死の予感をはらむものではあるが,これは理屈である.
触れているのは理屈ではなく,水と同じくつかみどころの
無い僕と言う生命だ.理屈は現実を締め上げ,
感覚は現実から湧き上がる.

雨後の芝.jpeg
雨後の平凡なイネ科の植物.絢爛たる水滴のアクセサリーが光る

「夏の爽やかな夕,ほそ草をふみしだき,
ちくちくと稲穂の先で手をつつかれ,小路をゆこう.
夢みがちに踏む足の,一あしごとの新鮮さ.
帽子はなし,ふく風に髪をなぶらせて.」
   アルチュ―ル・ランボウ,サンサシオンより,     金子光晴訳,角川書店,詩集,p.10

●街の街燈は暗く,星空は今よりも明るかった時,水も
またいたるところで淀み,水溜りをつくりだしていた.
雷鳴と驟雨が終わると,雨上がりの広場には決まって
即席の池ができあがり,それは僕等の遊び場となった.
手に触れる水の感触,それは60%が水である僕等の
身体との親和性を物語っているのだろうか.いつのまにか
水溜りには無数のボウフラが踊り,やがて蚊が飛び立って
行く.ところが生命の揺籃としての水のイメージ
或る日突然砕け散った.身体が水にどっぷり沈んで
しまったのである.

研究棟入口冬霧朝.jpeg
無機質なコンクリートも水を得て鱗のようだ.

●小学2年生か3年生か忘れたが,時はまだ戦争が終わって
まもない頃だった.夏になると冷房など一切無いから,
耐え難い暑さをひたすら風通しの良い場所で耐えるしか
無かった.生水をがぶ飲みしたり,たまには自家製
かき氷にありつける時もあったが,油断すると下痢が
待っている.そんな時の救世主が水遊びだった.
川は近場には流れていなかったので,父の知人の家族が
気を使って甲府駅北口近くにあるプールにさそって
くれたのである.喜んでついていくと,おびただしい
人の群れが歓声をあげながら水飛沫をあげているのが
目にとびこんできた.後で聞いたところそこはプール
ではなく,何か機関車のための貯水池だったらしい.
深さは思ったより深く,足は水を蹴るだけである.

新田溜池.jpeg
工房近くの貯水池.静まり返った水面が釣り人を誘う.

それまで一度も泳ぎをしたことのない僕は,プールの縁
にしがみついて足をばたつかせるのが精一杯だった.
くだんの家族もめんどうになったのか視界から消えて
しまった.と,その時,何者かが僕の両足をつかまえて
水中にひきずり込んだ.夢中でもがく頭上に水面が白く
光って見える.とっさのことで飲んだ水が腹の中に
なだれこむ.”苦しい”と思うが声にならない.
外の声は完全に消え,不快な音に囲まれる.もうだめ
かと思った時その手は僕の足を離した.もがく
僕の目の前にプールの縁が見えた.何事も無かった
かのような歓声.咳き込み,水を吐き出した僕の背に
ぎらぎらと夏の日差しが照りつけていた.
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コーミン

トップの水滴の写真は素敵ですね。
梅雨の時期、気分的には滅入る日々ですが、雨の日は良い写真が撮れるチャンスだと思っています。
by コーミン (2010-07-06 08:22) 

symplexus

>コーミンさん
 雨後の水滴はデザインの天才ですね.
蜘蛛の巣は皆がねらうので撮りませんでしたが,
 樹木の葉だけでも水滴がつくと別世界です.
梅雨時が撮影チャンスというのはおっしゃる通りです.
 防水カメラでないのが残念ですが・・

by symplexus (2010-07-06 22:33) 

エア

私は2枚目が好きです。
水は気体、液体、固体と身近に感じさせてくれます。
(液体ヘリウムはありますが固体はないと思います)
水は、流れは人生を「変化」を表しています。
by エア (2010-07-10 19:22) 

symplexus

>エアさん
 ☆今日は☆
  二枚目は一昨年の3月に撮影したものです.
   雨後の水溜りから湯気があがる暖かい朝でした.
  生き物の気配が弱いのに何かが始まりそうで,
 写真の出来はともかく僕もこれは好きな一枚です.
by symplexus (2010-07-10 22:33) 

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