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●溶解する地方都市と郊外SCの急成長;灰から生まれたぴかぴかでぺらぺらな不死鳥 [街]

■近代の都市の誕生として真っ先に思い浮かぶのは19世紀のロンドンであろう.
産業革命期の圧倒的活力と財を吸収して,大都市病理の総てを飲み込みながら
長期にわたりロンドンは近代都市の典型で有り続けた.サンボリズムの詩人
ランボーはその散文詩,「町々」でその不思議な印象を次のように書きとめて
いる.

”近代蛮族文明のもっとも巨大な着想も思いも及ばぬ堂々たるアクロポリス.
じっと動かぬ灰色の空が作る鈍い陽ざし,築きあげられた石の王者の
ごとききらめき,地上の永遠の雪,これらは言い表わしようもない.異様な
巨大好みによって,古来世に認められたありとあらゆる建築の驚異が
再現された.おれは,ハンプトン・コートの何十倍も広い場所で絵の
展覧会を見物する.その絵がまたすさまじい!”
(ランボウ全作品集,思潮社,粟津則雄訳,p.399)

ランボー肖像byFR.jpeg
ファンタン=ラトゥール(1836~1904)によるランボーの肖像画

別の町の詩で,ランボーは宿の窓から”濃くたちこめた石炭の永遠の煙の
なかを”さまよう人々を眺めるのだが,それは復讐の三女神にも似た亡霊
,つまり”涙もこぼさぬ死の女神,おれたちの世話をするあの働きものの
小娘に,絶望した愛の女神に,往来の泥にまみれたひいひいと泣きわめく
小ぎれいな罪の女神に”も似た亡霊のような人々と言わしめている.
この時ランボーがもし水道水を口にしたなら,ロンドンの印象はさらに
強烈なものになったかもしれない.近代創世記のロンドンでは排泄物は
下水道を通じて容赦なくテムズ河に放出された.その汚物まみれの
テムズ河の水は,水源として上水道にそのまま還流されたのだから驚く.
しかし,エネルギーと物質の時代をリードした近代ロンドンの活力は
その後も衰えることなく国際的大都市へと向かって脱皮を繰り返し,ナチス・
ドイツの激しい空爆をもしのいで世界都市の位置を不動のものにしていった
ことは僕が触れるまでも無い.

1979マンハッタン.jpeg
1979年,エンパイア・ステート・ビルディング展望台より見たミッドタウン

■ロンドンのような開かれた国際的大都市の活力の歴史は他の巨大都市の
歴史とも重なる.100を越える言語が飛び交うニューヨーク市などは,
犯罪都市の汚名を乗り越え,依然として世界の経済,文化の震源地で有り
続けている.東京にしても,パリにしても,メトロポリスとしての活力は
一向に衰える気配が無いのだ.「都会の孤独」や「殺伐たる自然環境」が声高に
叫ばれながら,巨大都市が一方的に富や文化を旺盛に吸収・消化していく
のに対して,一方では,豊かな自然を背後に有するはずの地方都市の多くは
溶解ともいえる衰退の中であえいでいるのはなぜだろうか.例えば僕の住む
人口20万の甲府市もまた絵に描いたようにその衰退の道を歩んでいるかに
見える.休日でもアーケードの下を行き交う人影もまばらで,夕暮れには
早々と店をたたむシャッターの音ばかり,場末感いっぱいの道路では
ソープランドの呼び声が侘しくこだまする.無料の駐車場など期待すべきも
ないから,食事も,買物も広い駐車場をそなえた郊外へと車を走らせる
ことになる.市内中心部という言葉がもはや意味をなさないのだ.
街はどの角度から見ても崩壊しつつある.そして,その空虚の空白を
埋めるかのように,郊外には巨大なショッピングセンター(SC)が林立
する.

ラザウォークSC.jpeg
甲府市北西部,甲斐市に最近出現した巨大なSC.八ヶ岳を眺望する.

■この流れはもちろん今に始まったことではない.郊外型大店舗の進出に
歯止めをかけようとする動きは,複数の動機により二昔以上前から絶えず
蒸し返されてきたが,それらは一向に甲府市再生とは結びつかなかったという
現実が有る.それがここにきて一気に大店舗の攻勢へと向かわせているのだ.
甲府市に隣接する甲斐市では釜無川に沿った田畑が大規模に造成され,
忽然と大SCが2年前に誕生した.周辺の購買意欲を掘り起こしているだけ
でなく,休日ともなればかなり遠方から買物に来たと思われる若者達が
塩崎駅から吐き出される.驚くべきことにこれより巨大なSCが,これまた
甲府市に隣接する昭和町で建設中だという.ここには大型シネコンの入居
も予定されているので,単なる買物施設を越えた社交の場が誕生するのかも
しれない.

昭和SC.jpeg
昭和町に建設中のSC.当初の計画より大幅に縮小されたが県下最大規模になる予定.

■しかし,この空しさはどこから来るのだろうか.全国どこにでもある
千篇一律の建築物,そのなかには同じような商品が,同じように並び,
同じような幸福が演出されて,標準語が同じような話し方で交わされる.
あくまでも明るい建物の外装は,良く言えば軽快,悪く言えばぺらぺらで
安っぽい.おそらく10年もすれば色あせて,次の建て替えが話題となるのだ
ろう.このような風景が人々に刻印していく世界とはどのようなものだろうか.


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● ちょっと一休み;小布施の休日 [街]

 山梨でもリンゴを作っているが,一度北部信州の小布施で買って以来
それが病み付きとなった.フジとかサンフジが中心なのは同じだが,
包丁で剥かれた黄緑の果肉を頬張ると,口いっぱいに甘味の限界を極めた
晩秋の味が,かすかな酸味と香りを伴なって広がるのが素晴らしい.
今年は21日から連休に入るので,人ごみを避けて20日(金曜日)に
中央道から信越道に抜けることになった.友人と連合いが小布施で
僕の小さな誕生会をしてくれるというおまけ付きである.
 朝8時半頃工房を出発,連山の紅葉を楽しみながら2時間半程度で
小布施のハイウエイ・オアシスに到着した.ダンボール箱で5箱程度は
リンゴを買ったろうか,みるみる車のトランクが一杯になって行く.
12時には小布施のレストラン「蔵部」の予約がしてあるので,買出しは
その程度で切り上げて高速道路側道から人口1万2千の街の中心部
に向かった.そこかしこに広がる栗林を抜けるとゲストハウス小布施
近辺の駐車場までは約10分,ここから蔵部までは徒歩で数分もかからない.

小布施2.jpg

小布施1.jpg

小布施3.jpg


このレストランは黒を基調とした伝統的な民家様式のようでいてどこか
現代にそれが甦ったような新しさがある.能書きによると,枡一市村酒造
の酒蔵をリメイクして出来たこのレストランは香港在住のアメリカ人デザイナー
;ジョン・モーフォード氏の手になるという.しかもプロデュースは
枡一市村酒造取締役;セーラー・マリ・カミング氏というからなかなか
面白い.

蔵部2.jpg

 昼食は誕生会ということでちょっぴり奮発してもらったが,これが
またなかなかの味で驚いた.古い伝統を踏まえていながらすぐには
劣化しない新しさと言ったら良いのだろうか.小布施の街全体から
立ち昇る自信と風格の由来を知りたくなり,帰宅後急いで町史を
ネットでたどってみた.何と言う不勉強!うかつにも僕は知らなかったが,
小布施は街づくりの卓越した成功例としてつとに有名だったのだ.
その中心に有って明快な理念を現実のものにし牽引したのが
宮本忠長氏である.
http://www.avis.ne.jp/~miyamoto/

 旧市街を更地にして,再開発の名もとに10年もすれば古くなるような
建物を並べるといった手法と氏は真っ向から対決する.そこに生活
してきた人々の歴史をたどり,これを現在に生かす道筋を具体的に
明らかにしていく,そこから誕生してくる街並みは単なる懐古ではなく
風化に耐える普遍性,新しい文化だという確信がそうさせるのであろう.
「まちは生きている.まちづくりとは,いえづくりに例えるなら模様替え
工事である.いっぺんにできあがるという代物ではない.少しずつ,
住みながら,生き続けながら,設計し着工する」
小布施の街づくりにあたっての氏の言葉である.

蔵部1.jpg
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